最高裁判所第一小法廷 平成10年(す)300号 決定 1998年12月25日
被告人
近藤直
右の者に対する所得税法違反、詐欺被告事件(平成七年(あ)第一二三五号)について、平成一〇年一二月一六日当裁判所がした上告棄却の決定に対し、被告人から異議の申立てがあったが、右申立ては理由がないので、刑訴法四一四条、三八六条二項、三八五条二項、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、次のとおり決定する。
主文
本件申立てを棄却する。
(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)
平成七年あ第一二三五号
異議申立書
所得税法違反・詐欺 被告人 近藤直
右の者に対する頭書被告事件について平成一〇年一二月一六日上告棄却の決定があり、被告人らは同年同月一八日右決定謄本の送達を受けたが、右決定に対し、左記理由により異議を申立てる。
平成一〇年一二月一九日
弁護人弁護士 浅野芳朗
最高裁判所第一小法廷 御中
記
第一点
本決定は被告人、弁護人らの上告趣意に対し、いずれも単なる法令違反、事実誤認の主張であり、刑事訴訟法第四〇五条の上告理由に当らないとして、同法第四一四条、第三八六条一項三号により上告棄却の決定をしたが、本決定には右条項の解釈適用を誤った違法がある。
本決定が同法第四一四条により上告審に準用した同法第三八六条一項三号は、上告申立の理由が同法第四〇五条に規定する事由に該当しないことが「明らか」であるときに限り、「決定」を以て上告を棄却することができることを規定したものである。
しかしながら、被告人らの上告理由を上告趣意書について子細に検討すれば、これが上告理由に当たらない法令違反、ないし事実誤認の主張であることが明らかであるとは到底言い得ないのであり、それなればこそ、本決定も「明らかに」とせず、「単なる」法令違反、事実誤認の主張であると説示しているのに過ぎないのであり、判決によらず決定を以て上告を棄却した本件決定は明らかに同法第三八六条一項の解釈適用を誤ったもので違法である。
第二点
本決定は、弁護人らの上告趣意のうち「判例違反をいう点は、所論引用の判例は本件とは事案を異にして適切ではなく」と説示しているが、右説示は弁護人らの上告趣意を誤解しているものであって不当である。
弁護人が上告趣意に引用した最高裁判所判例(昭和三〇年一〇月一四日第一小法廷判決)、及び大審院判例(大正二年一二月二三日判決)については、弁護人は本件は右最高裁判所判決の事案とは趣を異にしており、大審院判決を適用されるべきものであると主張して引用しているのである。
しかるに、本決定は右相反する両判例を比較検討して判断することもなく、単に所論引用の判例が本件とは事案を異にするといっているに過ぎず、本決定はこの点に関する弁護人らの上告趣意を正当に理解せず、安易に例文的結論を示したものであり不当である。
よって、本件決定に対し異議を申し立てるものである。
以上